現在のスマートフォンの普及には、古くから携帯電話を販売してきた販売代理店の競争の歴史があります。この記事では通信業界について理解を深めたい方向けになぜ販売代理店が生まれ、大きな販売網を作り出すことになったのかを業界の仕組みとともに解説していきます。
通信業界の成り立ち
販売代理店の発生の前に現在の通信業界はどのように成り立ってきたかを理解する必要がありますので簡単に説明します。
1985年に電気通信事業法が施行し、それまで国に守られて国内通信を1社で独占していた日本電信電話公社(電電公社)の民営化がすすめられNTTが誕生しました。※国際通信は国際電信電話株式会社(KDD)が担っていましたが同様に民営化されています。
同時に通信事業の新規参入規制が緩和されたことで多数の商社や電力系事業者が通信事業に参入し、第二電電(京セラ・ソニー・セコム等が出資 / 現:KDDI)や日本テレコム(三井物産・三菱商事・住友商事等が出資 / 現:ソフトバンク)といった旧第一種電気通信事業者が誕生しました(この新たな事業者群をNCCと呼びます)。この頃の携帯電話は自動車電話が一般的で電電公社⇒NTTが大きいシェアを持っていました。
1994年にはそれまでレンタルだった携帯電話をユーザーが購入して利用できる仕組みが導入され、日本テレコム出資のデジタルホングループ (ツーカーグループと提携)第二電電出資のDDIセルラーグループが本格的に携帯電話事業に参入することで、市場が広がると同時に各社の競争原理が大きく働き端末価格・通信料金が大きく引き下げられ携帯電話が一般に広く普及することとなりました。またこの端末購入制度のスタートと同時に製造メーカーも新規参入が増え、様々な形状の携帯電話が市場に出回り独自の進化をしていきます。ガラケーの語源となった独自進化(ガラパゴス化)の始まりです。
2001年には3Gサービスの展開時に総務省からの周波数割り当てが3社に限定されることから日本テレコム系と第二電電系の各グループの統合が進み現在のNTT・KDDI・ソフトバンクという構図が完成しました。
1979年 | ・自動車電話サービス開始 |
1984年 | ・日本テレコム創業 ・第二電電創業 |
1985年 | ・ショルダーホンサービス開始 ・電気通信事業法施行 ・日本電信電話公社民営化(NTT誕生) |
1987年 | ・携帯電話サービス開始 |
1988年 | ・第二電電を母体にDDIセルラーグループが発足し携帯電話事業へ参入 |
1991年 | ・日本テレコムを母体にデジタルホンが発足、ツーカーグループとローミング提携し携帯電話事業へ参入 |
1994年 | ・携帯電話の買取制がスタート |
1997年 | ・日本テレコム系(デジタルホン・ツーカー)がJ-PHONEブランドを立ち上げ |
2000年 | ・第二電電系のDDIとIDO(トヨタ自動車主体)・KDD(国際電信電話株式会社)が合併しKDDIが発足、auブランド立ち上げ |
2001年 | ・日本テレコムがボーダフォン傘下に |
2004年 | ・ソフトバンクが日本テレコムを買収 |
2006年 | ・ソフトバンクがボーダフォン日本法人を買収 |
■1985年に日本電信電話公社が民営化しNTTが誕生した
■同時に第二電電と日本テレコムが誕生し通信事業に参入した
■1987年に携帯電話サービスがスタートした
■1988年以降 第二電電はDDIセルラー・IDO、日本テレコムはデジタルホン・ツーカー グループで携帯電話事業に本格参入
■3Gサービス開始時に各グループの統合が進み現在のNTT・KDDI・ソフトバンク3社の形が成り立った
販売代理店の成り立ち
1985年のNTT民営化当時は携帯電話といえば自動車電話で、主に高級車のオプションとして自動車の販売店が取り扱いをしていました。1994年の携帯電話の買取制スタートによる携帯電話の急速な普及から各事業者は全国に新たな販売網を広げる必要があり、
様々な資本元から販売網を形成しました、販売網は基本的に事業者とは別の会社が運営することとなり、販売代理店が発生しました。
販売代理店は成り立ちから区分けが出来、業界では主に下記の3つに分類をしています。
商社系販売代理店 | 各事業者に資本参加している商社の力を借りた販売網を運営する代理店 |
メーカー系販売代理店 | 携帯電話端末の開発メーカーの力を借りた販売網を運営する代理店 |
独立系販売代理店 | 地場の有力企業の力を借りたり、自ら希望して参画した販売網を運営する代理店 |
商社系販売代理店について
商社系販売代理店とはNCC発足時に出資した企業群が運営する販売代理店です。
こうした企業は通信事業者と深く関わりがあり、ほとんどのケースでNCC系の携帯電話販売を目的とした販売網を構築していきました。各商社は新たに子会社を設立し携帯電話販売に参入しています。
NTTドコモは自動車電話の製造をする自動車メーカーや、取り付け工事を行っているディーラーと販売代理店契約を結び販路構築をしていましたが、それだけでは携帯電話の普及に販売網が追い付かず、NCC系の商社と代理店契約を結ぶことになります。
現在も存在する多くの一次代理店(事業者と直接やり取りをする代理店)は商社系企業から発祥した企業が多い現状です。
主要代理店名 | 成り立ち |
ティーガイア | 三井物産系のテレパークと住友商事・三菱商事系のMSコミュニケーションズが合併し発足、現在は住友商事グループ |
ITX | 日商岩井傘下の電子回路販売会社をオリンパスが買収、オリンパスの経営悪化から家電量販店のノジマが吸収合併 |
兼松コミュニケーションズ | 兼松系の兼松コンピューターシステムが携帯電話販売事業に参入、社名変更を経て今の形に |
MXモバイリング | NECの子会社で携帯販売を行っていた日本電気移動通信株式会社が丸紅の子会社化した事から、丸紅傘下である丸紅テレコムの携帯電話販売事業と統合しMXモバイリングとなる |
TDモバイル | 豊田通商の子会社である豊通シスコムとデンソー関連会社の携帯電話販売事業を統合し発足 |
コネクシオ | 伊藤忠商事の携帯販売の受託会社として設立 |
メーカー系販売代理店について
メーカー系販売代理店は携帯電話端末の開発を行っていたメーカーの出資で設立された販売代理店です。各事業者とメーカーは密接なかかわりがあり、商社系と同じく販売網の形成について早い段階から展開を始めている企業が多数あります。母体としてはパナソニック・NEC・東芝・三菱電機・日立・富士通などの傘下がありますが、電気通信事業法改正のあおりや海外端末の台頭により低調な企業もあり、パナソニックテレコムがITCネットワーク(現:コネクシオ)に吸収されるなど、事業ごと買収されるケースが多くあります。
主要代理店名 | 成り立ち |
NECモバイリング | NEC傘下で携帯電話販売事業を行っていたが2013年丸紅グループに買収。現在は丸紅傘下の丸紅テレコと統合する形でMXモバイリングとして運営 |
パナソニックテレコム | パナソニックの移動体端末製造会社であるパナソニックモバイルコミュニケーションズの100%子会社として携帯電話販売を営んでいたがITCネットワークに吸収、消滅会社となる。 |
富士通パーソナルズ | 富士通製のパソコンや移動体端末の直販会社として1995年に発足、現在もドコモショップを中心に携帯電話販売事業を運営 |
ダイヤモンドテレコム | 1994年に三菱電機の100%子会社として携帯電話販売事業を開始、2016年に兼松系の兼松テレコムに吸収、消滅会社となる。 |
独立系販売代理店について
商社系やメーカー系の販売代理店は各通信事業者と代理店契約を行い、早い段階で携帯電話販売事業に参入していましたが、それ以外の地場の有力企業の力を借りて販売代理店を立ち上げるケースや、業界の発展を見越して参画した中小企業も多くありこれらをまとめて独立系販売代理店と呼んでいます。上記の成り立ちから独立系販売代理店も地場系とベンチャー系の2パターンに区別する事が出来ます。
独立系販売代理店はかつて無数に存在しましたが現在は減少傾向で、理由として通信事業者は全体で高い販売と安定した運営が出来ように不安定な代理店からは店舗を奪っていく政策が多々行われることが挙げられます。
・販売ランクが高い店舗や代理店ほど手数料が高くなるように設定する
・老朽化店舗の改装や人員数を事業者側で設定し、対応できない場合は手数料の減額や閉店勧告を行う
・同商圏の店舗を同一の代理店に統一、もしくは統合が進むような施策を打つ
こうした政策がある中では商社系に比較し資本力の弱い独立系販売代理店は次々に有力な代理店に店舗を奪われ、最終的に事業ごと手放すことになります。また、キャッシュフローが安定せずに自ら撤退するケースも多くあります。
反面、成長している企業は目覚ましく最大手の商社系代理店である「ティーガイア」に続き、光通信系の「テレコムサービス」、ソフトバンク専売の「ベルパーク」等が大手と称されており、独立系代理店もかなりの力を有しています。
代理店名 | 成り立ち |
光通信 | 1998年OA機器の販売会社として設立、1994年の携帯電話買取制スタートと同時に携帯販売事業を開始。販売力を武器に回線、電力、宅配水、保険等と業種を増やし成長 |
ベルパーク | 1993年移動通信サービス販売会社として設立、株式会社ニッカの買収や日信商事・テレックなどの地場代理店運営店舗の2次店化等を進め成長 |
コスモネット | 1991年設立、成長を続け日本全国を営業エリアに運営 |
エスケーアイ | 1991年設立、葬儀会館「ティア」の展開や太陽光発電事業など幅広く展開 |
二次代理店の存在について
上記で並べたのは事業者と直接やり取りが出来る一次代理店であって、一次代理店と代理店契約を結んでいる二次代理店(または二次代理店と代理店契約を結ぶ三次代理店)も存在します。一次代理店の中には二次代理店の運営をビジネスモデルとしているようなケースもあり、業界大手であるテレコムサービス(光通信系)などは多くの二次代理店と代理店契約を結んでいます。当然ですがパワーバランスは二次代理店のほうが弱く条件面で不利になりますが、一次代理店として通信事業者と直接代理店契約を結ぶ際には膨大な保証金や在庫を抱えるリスクが発生するため、こういった構図が発生します。
代理店の収益構造について
代理店の主な収益は契約獲得の際に支払われる「ショット」と呼ばれる手数料と獲得した顧客が解約しない限り発生する「継続手数料」と呼ばれる手数料、その他ショップで手続きを行った際などに発生する「受付手数料」、キャリアから発生する「支援金」で成り立っています。※下記金額は一例です。
区分 | 内容 |
ショット | 契約獲得時に数千円~数万円 |
継続手数料 | 加入者の月額利用料に応じて一定額が毎月入る |
受付手数料 | 手続き一件で数百円程度 |
支援金 | 施策による |
当然ですが新規で獲得がすすめば「ショット」も「継続手数料」も増えますし、キャリアショップなら地域でユーザーが増えれば「受付手数料」も増えますのでどうしても他社からの乗り換え等の新規ユーザーにこだわった動きが強くなりがちです。事業者の施策によりますが、オプションの加入で大きい金額が入ったりその他商材(クレジットカードやインターネット等)が急に金額として大きくなったりします。あくまで代理店ビジネスなので通信事業者が設定した金額に応じて収益が上がるようになっています。
販路について
各代理店は様々な販路を持っており、一つに特化したり複数を幅広くもったりしています。大きく分けると家電量販店での携帯コーナーで販売する「量販」、ドコモショップ・auショップなどとして店舗を運営する「キャリアショップ」、複数の事業者を取り扱う併売店と分かれます。
傾向として総務省の是正により端末値引きでの差別化などが難しくなっており、機種変更を他社ののりかえに振ったり、独自サービスとしてウォーターサーバーや荷物預かりサービス等の取次で収益を稼いだりと生き残る為に工夫をしています。
販売代理店の今後について
市場自体は普及が進み切り成熟期に入ったことから、濡れ手に粟で収益が上がる時代は終わったように見えます。また、総務省からの電気通信事業法改正などにより大手キャリアは不利な状況が続いたり、値引きの差別化がないことからとオンライン手続きの普及が相まってショップで購入をせずに直販サイト(通信事業者の公式HP)で手続きをするユーザーも増えているように感じます。ただし、通信事業者としては販売の窓口として安定した営業が行える代理店は必ず守りに行くため、大手販売代理店に関しては、M&Aを行ったり、他社から一部の店舗をもらい受けることでまだまだ発展が望める環境なのではないかと思っています。
また、業界自体が上記のような成り立ちで出来ているため役員から一般社員まで比較的若い人材が多い企業が多く、会社が求める販売を突き抜けて行える人材には手厚く報酬を与える傾向があります。チャレンジできる環境でエネルギッシュに働きたいという方は選択肢としてもよいでしょう。
まとめ
通信業界はここ30年間で目覚ましい発展をとげました。事業者のパートナーとして販売に携わる販売代理店がどのような発展を遂げてきたかを確認する事で通信事業に対する理解が深まるでしょう。
現在度重なる法改正などにより販売代理店の立場はターニングポイントを迎えているともいえます、今後の通信業界、および販売代理店の動向を見守っていきましょう。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
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